バイオリンのはなし

移絃

移絃は弦楽器の演奏を習得するうえで難しい課題の一つではないかと思う.これについて,最近,先生からのアドバイスをヒントに気づいたことがあったので書いておきたい.

そのアドバイスは「移絃の際に弓を動かす角度を最小限に抑えなさい」というものであった.例えば,E線からA線に移絃するときには,ほんの少し弓を傾ければ弓がA線に触れるような角度でE線を弾きなさいということである.このことは「あたりまえのこと」かもしれないが,これまで実際に練習をしてきた身から見ると一つの「発見」(自分で見つけていないので発見ではないけれども)であった.

楽器を習いはじめて日が浅いあいだは,弓の傾きを一定に保って弓を動かすことが難しいため,弓の傾きを隣接する絃からできるだけ離れた角度,つまり,両側の絃のどちらからも離れた「中央の傾き」をとろうとする.例えば,内側にあるA線を弾くときには,その両側のE線,D線からの距離が等しくなるような角度で弾こうとする.また,外側にある絃(G線やE線)を弾くときには,その外側に絃がないことをよいことに,内側の絃と絶対に接することのないような極端な角度で弾こうとしてしまう.

さらに,移絃しようとするときは移動前の絃から移動後の絃にしっかりと移動させようとする(もとの絃に触れてしまうのが怖いため)ことになるので,隣の絃と触れない角度から動きはじめて,移絃後も隣の絃から離れた角度にまで弓を傾けようとして,弓を大きく動かすことになる.こういうことをしていると,当然のことながら,移絃に伴う手間は大きいし,移絃に要する時間も長くなるため,実際に弓が弦を移るタイミングが不安定になってしまう(つまり,移絃のタイミングにばらつきが生じて音のリズムが不正確になる).

いずれにしても,このころは,移絃は「ある絃と別の絃のあいだを切り替える」という「デジタルな感覚」であった.これに対して,先生の示唆は,同じ弦を弾くにもいろいろな弓の傾きが可能であって,移絃しようとするときは隣の絃に近い角度で弾いて移絃の準備しなさいという意味であるから,こちらはいってみれば「アナログの感覚」である.つまり,一つの絃を弾くための弓の傾きは連続的に存在しているということである.

この気づきは私にとっては「天動説と地動説の違い」ぐらいに大きかった(おおげさか?).このことに気づいてからは,移絃を柔軟にとらえることができるようになったし,そもそも移絃が非常に楽になった.これまで,大げさにどっと弓の傾きを変えていたのに対して,ほんの少し傾きを変えるだけで移絃ができるのに,音のつながりもなめらかになる.とにかく楽である.これだけ楽になるなら,ということで,隣の絃にどれくらい近寄った傾きで弾けるかといったそれまでは考えられなかったような練習もするようになった.

また,新しい気づきが得られるのが楽しみである.


Last-modified: 2019-10-22 (火) 11:13:15