第11回 関東「音楽と脳勉強会」のご案内
日時 平成27年3月27日(金) 19:00~20:00
会場 電気通信大学 西10号館2F 大会議室 (地図はこちら)
小幡 哲史(大阪大学大学院医学系研究科)
「バイオリン演奏時における左手指および顎あて力制御について」
左手指によって弦を指板に固定する力(押弦力)と、顎によって楽器を固定する力(顎あて力)について、演奏中にどれくらいの力が発揮されているのかを、さまざまな演奏技法を用いて明らかにした。押弦力については左手の上腕と前腕の筋活動も同時に測定し、力制御との関連について明らかにした。熟練者と初心者の特徴の違い、個人差、障害との関連などについて紹介する。
今回の発表は、ヴァイオリンの演奏に関する研究で、発表者の学位論文の一部を取り上げたものである。
ヴァイオリン演奏家には筋の障害が多い。この原因を究明し対策を行うことを目的として、ヴァイオリン演奏時の指、あごの力および、関連する身体の筋運動を計測した。計測には実際のヴァイオリンにセンサーを取り付けたものを独自に作成して用いた。指の力、顎の力をそれぞれヴァイオリンの指板および顎あてに力覚センサーを取り付けて測定した。プロのヴァイオリン演奏家及び初心者それぞれ数名を計測対象とした。
ヴァイオリンにはフレットが無く、指で音の高さが決まる。弦はG線、D線、A線、E線の4弦であり、指は人差し指、中指、薬指、小指を用いる。この内、力を測定する場所はA線のDで、薬指の圧を測定している。演奏の条件は、開放弦音とD音(力測定音)の繰り返し、テンポは速い場合と遅い場合、強さは弱いから強いまで数段階、音符は2、4、8、16、32分音符、ヴィブラートはかけた場合、かけない場合等であった。
主な結果として、初心者とプロでは、弦を押す力や押さえ方に歴然とした差があることが客観的に示された。初心者の場合、必要以上に強く弦を押さえるかと思われたが、意外な事にその逆で、プロの場合の方が弦を押さえる力が強い。これは薬指なので、元々力が弱いの訓練より、強くなったものと思われる。
プロは押し離しの動きが素早く、押す際にオーバーシュートが見られ、後はほぼ一定であった。これに対し、初心者は動きがゆっくりで、押す際にあまりオーバーせず、最後に圧が増加する場合があった。また、プロの場合、押弦テンポに依存して押さえ方に差がみられた。テンポが遅い場合は、押したのちに定常状態が現れるが、早い場合には山型になって定常部分がない。また、テンポが早くなると最大力が小さくなった。
この遅い場合の結果は、発表者の研究指導教官によると、指先でつまむ動作と類似しているそうだ。このように早い動作とゆっくりした動作では制御が異なるということは、一般的な動作すべてに通じるものだと考えられる。この結果は大変面白く、押すばかりでなく引く動作も重要である事を示している。これはヴァイオリンだけではなく、他の楽器、例えば、ピアノ等にも通じる事と思われる。また、指をタッピングした場合、速度が速い場合と遅い場合では間隔の調整に制御の差が見られた研究とも関連しそうだ。
ヴァイオリンは主に顎と肩に楽器を挟んで演奏するが、ヴァイオリンを抑えるにはかなりの力がかかっており、またこのため、X線写真で、顎が自然の位置よりかなりずれることが判明した。すなわち、かなり不自然な体系をとらなければならず、これが障害の原因での一つと思われる。今後は、音色との対応、他の弦、他の指の力、さらにこれらの結果から障害を防ぐ方法へ結びつけるなどが必要である。 (大山玄)