第4回セミナーのご案内

スケジュール

日時  平成26年7月23日(水) 16:00~17:30 【時間を変更致しました】
会場  電気通信大学 西10号館2F 大会議室 (地図はこちら
参加費 無料(事前登録不要)

プログラム

招待講演  塚田稔 先生 (玉川大学) 「ダンスの美の創成と脳の情報表現」

講演要旨

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 芸術とは“いかに異質なものを統合することによって新たな情報を生み出すもの”と定義することができる。この意味ではダンスの美の世界も、発明発見の世界も、問題解決で浮かぶアイデアの世界もまったく類似であると考えている。
 美の創成であるペアーダンスの世界を例にとって考えてみる(図参照)。男性のリーダは身体の軸を中心に片足で全身のバランスを取り、ひとつの安定な状態を維持しながら、もう片方の足へ滑らかに体重移動をして再び安定な状態を繰り返すダイナミックな運動である。この運動は背景の音楽のリズムに乗って美しいステップを踏むことによって男性の力強さの美を表現する。これは、アルペンスキーのクリスチャニア回転技術と極めて類似した体重移動でもある。いっぽう、女性のパートナーはリーダと同様にダイナミックな体重移動に伴い、男性にない女性の優雅な美を表現しようとする。それぞれ、美しい軌道が完成した後、両者が一組となって踊るとき二人は新たな問題に直面する。互いに相手の存在を意識して踊らなければならないので、既に完成した個々の安定な軌道は再び修正されなければならない。ここから「ペアでなければ表現できない美とは何かの探求」がはじまる。はじめに、リーダとパートナーがそれぞれ持っている姿勢の重心の位置を修正しなければならない.2人は情報交換するために互いに相手に自分の動きを伝えるための姿勢を作る.
 リーダがパートナーをリードしようとして強いコンタクトをするとパートナーはその強さに引きずられて自分の美を表現できない.互いに接点を介して情報をやり取りするためには極めて弱い力で接触点を作り(これは,動きの情報は伝わるが力は伝わらない状態で)情報の交換をする.このような姿勢が互いにできれば相手の安定な美しい姿勢を崩さずに踊ることができる.まさに互いの主体性と協調による美の表現の第一歩である.それは、ペアが音楽に合わせ同期した動きで踊るときそこには重畳的なペアの美が生まれる.これが「加算的情報創成」である.神経細胞集団がその発火の同期性をもちいて互いにコミュニケーションする脳内情報表現と考えることができる.相手を理解すると互いの脳内の細胞集団の発火が同期すると考えるもので,人間同士のコミュニケーションの脳内表現の一つと考えられる.
 つぎにペアは今までの経験を生かして“ペアの新たな美”を創り出さなければならない.リーダとパートナーは互いに異なる美をもっている.リーダはパートナーの優雅な美を,パートナーはリーダの力強い美を理解して踊れるかどうかの問題である.ただ,音楽に合わせて自分の美を同期させる問題ではない.互いに相手の美しい動きを自分の中に取り入れながら自分の動きを創り出すことが求められる.同期の位相はずれてもかまわないが新しい表現(ペアが創りだす新しい美の動き)がそこに生まれるかどうかが問題である.重畳的な美は二人に既存の美の足し算に過ぎないが、この創成の美は二人が既存の経験から新たに生み出す新しい美の創成である。前者はペアを分解してもそれぞれの個体に残存する美であるのに対して、後者は分解すると消えてしまう美であり、互いに異なる美の世界の相互作用によって新たに生まれた美である。この境地に達したペアは重畳的な美の動きに加え互いに相手の美の表現を理解した上に自分の美を表現する技術をマスターしている。したがって,このペアには互いに役割分担の機能がうまれ,因果律に基づく相互関係が形成される.
 この情報表現には前述の同期現象にない情報が含まれている.そこには,順序関係や過去の履歴の情報が表現されている.すなわち,因果関係を表現する論理構造が表現できている.発展的に考えれば,神経細胞集団AとBがコミュニケーションすることによって集団間に時間相関の順序関係ができる.BはAの状態(発火しているか否か)を知って自分の状態を決め,逆に,AはBの状態を知って自分の状態を決めることができている.すなわち,両集団間に因果律の論理構造が埋め込まれていると考えることができる.
 美の競演であればこの相互理解こそ重要なポイントとなる。この新たな情報表現はシステムの部分と全体の相互作用による情報表現の創成であり、このメカニズムこそ人間の持つ情報創成の優れた機能であり,自分の内にない異質の情報を外部から取り込み既存の情報と統合することよって新たな情報を創成する機能である.

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