補足資料

有髄線維と神経パルスの伝達速度と有髄線維,無髄線維について

神経線維には,ミエリン鞘と呼ばれる鞘のあるものとないものがあり,前者の方が神経伝達速度が速いことは講義の中でお話したとおりです.

いずれの線維でも線維が太いほど神経パルスの伝達速度は速くなります.無髄線維については,伝達速度が鞘の半径の平方根に比例することが理論モデルから導くことができて,実験データもそれを裏付けています.これは直観的には,半径が大きくなると膜の単位長さあたりの電気容量が大きくなる(伝達を遅くする)が,進行方向の電気抵抗も小さくなり(伝達を速くする),両者の効果を比べると後者の方が効果が強いために,結果として電気の伝わる速さが速くなるためです.

鞘がある線維については,講義でも少し話しましたが,鞘のついていない部分(ランビエ絞輪)を飛び火するように電気信号が伝わる(「跳躍伝導」という名前がついています)ため,信号が速く伝達します.その原因を簡単に説明すると次のようになります.

膜の周囲を鞘がとりまくと,それは等価的に膜の厚さを増やしたことと同じ効果(ただし,その効果は100倍にもなる)をもたらします.膜をコンデンサとして捉えると(コンデンサの極板間距離を伸ばすと電気容量が小さくなりますから)これは電気容量を小さくすることになり,それが伝導を高速化します.ただし,鞘がついている部分では膜が能動的な電気活動(パルス)を起こすことができないため,鞘がずっと続くと電気信号は拡散しながら減衰するだけで,情報伝達が途中で途絶えてしまいます.そのようなことが起きないのは,鞘である間隔で途切れていて(それがランビエ絞輪),そこのある多数のNaチャネルが大きな脱分極を起こすようになっているためです.その結果として,ランビエ絞輪の部分だけ大きな電気活動が観察されることになります(これが跳躍伝導を呼ばれるゆえん).

神経科学分野で定評のある米国の教科書から神経線維での信号伝達に関する章を切り出してPDFで用意しましたので,きちんと理解したい人はこちらを読んでください.英語の文献ではありますが,電気伝導に関するメカニズムが丁寧かつわかりやすく説明されていて,よく理解できると思います.例えば,講義では「ある場所で電位が上がれば周りも影響を受けて電位があがる」としか説明しませんでしたが,それが拡散として捉えられることがきちんと説明してあります.ミエリン鞘とランビエ絞輪の話しやこの章の最後にあります.


Last-modified: 2019-10-22 (火) 11:13:15