脳運動制御の計算論的研究Q&A

人の身体とロボットの違いはどういうところにあるのでしょうか?

「脳の計算理論」の項目でも述べましたが,人間とロボットの運動には似ている部分と似ていない部分があります.ここでは主に違う部分に焦点をあててみます.

構造

 通常ロボットは,そのロボットの目的を実現するのに適した構造になるように設計しますから,その構造は実現したい機能に応じて決まってきます.これは,人間の形状を模したヒューマノイドロボットでも同じことです.これに対して,人間の身体は,進化の結果として生まれてきたものですから,特定の機能を実現することに適した構造になっているわけではありません(もちろん,進化の過程で生き残ってきたということは何らかの意味で良い意味があったのでしょう).

 ヒトの構造とロボットの構造が違う例として「腕」について考えてみましょう.ここに示したのは人間の骨格の図と産総研で開発されたヒューマノイドロボットHRP-4のリンク構造の図です(骨格図の出典は「骨単」,ヒューマノイドロボットの図の出典は日本ロボット学会大会資料集です)

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ヒトの骨格HRP-4Cのリンク機構HRP-4Cの動作

 まず,肩の部分に注目してください.ロボットの腕は肩にある関節を軸にして動きますが,ロボットには胸から肩にかけての部分に可動部がありませんから,腕が動く場合はまさに腕だけが動くことになります.実際,写真を見るとわかるようにロボットが腕を動かしていろいろなポーズをとっても胸と肩はずっと同じ姿勢を続けています.これに対して,ヒトの肩関節は鎖骨を介して胸骨につながっていて,胸骨の関節が動くことによって胸と肩の位置関係が変化します.つまり,腕が動くときは肩も一緒にある程度は動くことになります.例えば,目の前にあるものに右手を延ばせば,右肩は自ずと前に動くことになります.このように考えると,人間の腕の起点は肩ではなく胸と考えた方がよいのかもしれません.

 次に,肘から手にかけての構造に注目してください.ロボットの腕では,前腕の回旋(ひねる方向の運動)は肘の関節の回転によって実現され,手首の屈曲や伸展は手首の関節によって実現されています.つまり,回転はすべて関節の位置で実現されています.一方,人間の前腕の回旋運動は,親指側の骨(橈骨)と小指側の骨(尺骨)がねじれることによって実現されています.つまり,前腕をひねるときには肘に近い部分はほとんど動かず手首の部分は大きく回るということです.また,手首の屈曲,伸展は単一の軸によって実現されているのではなく,多数の骨のあいだが少しずつ変形することによって実現されています.

 このように,ヒューマノイドロボットと人間は一見同じように見えても,その構造は大きく違っています.ここでは身体を動かすのにどちらが優れているかということを議論しても仕方ありません.重要なことは,ヒト(あるいは脳)は,発達の過程でこのような特別な構造をもった身体を操るための制御方法を学んでいるということです.

力の生成方法

(現在執筆中)


Last-modified: 2019-10-22 (火) 11:13:15