バイオリンのはなし

弓の持ち方

おそらく弓の持ち方は難しい問題で,今後も試行錯誤を繰り返していくことになると思うのだが,とりあえずバイオリンに触れて1週間~1か月程度の時点での弓の持ち方について感じたこと,考えたことの記録を残しておきたい.

弓を持つ

「楽器を支える」で書いたことと同じことなのだが,弓の場合も,やはり最初のうちは持つものを「力」で支えようとして余計な力が入ってしまう.あらゆる楽器演奏(おそらくスポーツも同様なのだろうが)で「脱力する」が最も重要だといわれるが,重要なことがあたりまえにできるのであればわざわざそれが重要だとはいわないはずだから,やはり脱力することは難しいことなのだろう.

そもそも,私はバイオリンの勉強を始めるまでは弓は右手で「持っている」ものだと思い込んでいた.しかし,それは大間違いで,弓は弦の上に置く(つまり,弓の重さの一部は弦に預ける)のだということを知った.考えてみれば単純な物理の話であるが,弓の先端が弦の上に載っているときは,弓の重さは弦と右手でほぼ当分されるので弦に重さがかかりにくく,逆に弓の根本が弦にのっているときは弓の重さがほとんど弦にかかるようになる.このような重さの変化を右手でコントロールすることで一様な音が鳴るようにするということである.

こういった理屈は頭に入ったとしても,それを自分が身体感覚としてどのように理解するかというのは別問題である.実際,始めてしばらくのあいだ私は間違った持ち方をしていた.弓は通常「親指をくの字に曲げて下からスティックを支え,人差し指から薬指まではスティックの上に軽く載せ,小指を柔らかく曲げてその先端をスティックの上に置く」というように持つ.最初のころは,「人差し指から薬指の重さを弓に載せる」ということがよくわからず(これはいまだによくわからないが),さらに親指と中指で挟みこむようにして弓を持っていた.たぶんこのことは,下の項目に書く「手首に力が入っている」原因の一つになっていたのだろう.誤解をおそれずに印象をかけば「親指は下からスティックを支えほかの指が上から重さをかけることで弓を保持する」のが望ましい姿だとすると,私は親指と中指をスティックの側面からはさみこむようにして弓を支えていたのであった.この間違いに気づくことで,指から余計な力が抜けてだいぶん楽になった.

弓をまっすぐに動かす

弓は通常,駒と指板の中央あたりで弦と接して,弦に垂直な方向にまっすぐに動かす.しかし,この弦に「垂直に弓をあてる」ことが難しい.これは楽器をもってみて初めてわかったことであるが,目から弓が弦にあたる部分までの距離が短いために,目で弓を見ても弦と弓が垂直になっているかどうかがよくわからない(つまり,距離が近すぎて直角のものが直角には見えない)のである.自分では垂直になっていると思って弾いていたのだが,家族から「弓が斜めになっている」と指摘されてようやくそのことに気が付いた.

ではどうするかということで,一つの目安を発見した.それは指板の輪郭の線と弓の方向が平行に見えるようにするということである.これでだいぶんよくなったが,それでもE線ではあまり自信がもてず,鏡の前でチェックするとやはりがたがたしている.ただ,いずれにしても弓の動きを視覚に頼って判断することはよくない感じがする.できるだけ早く身体感覚で弓の動きがわかるようになりたいものである.

手首に力が入る

さて,楽器を借りて自宅で1週間練習してレッスンを受けにいったときにまず先生に指摘されたことが「手首」「甲」に力が入っているということであった.具体的には,右手の手首が先行して右手が動いていて,あわせて肘が低く手首が高くなっているということである.こうなると,右腕の動きが制約されて右腕の重さを弓にうまく載せることができないということだった.「手首から力を抜いて肘の屈曲,伸展を使って弓を動かしてください」(先生がこのような言葉を使ったわけではなく私の理解ではということである)」 というなので,その次の週はこのことに注意して練習することにした.このときのレッスンで,「弓の根本まで使うのは難しいので,まずは弓の先端半分だけでよいです」と先生がおっしゃっていたのだが,その理由はそのときはよくわからなかった.

「手首に力が入らないようにするにはどうすればよいか」「肘の動きを主導するにはどうすればよいか」を考えていて思いついたことは,前腕の動きは小指側(尺骨側)が軸になるのではないかということである.ピアノを弾くときの注意事項として,腕のローリングの中心は小指側であるということがある.ピアノを弾くときは,ドレミの音は通常親指から弾くために,多くの初心者は親指側を軸として捉えてしまうのだが,骨格系の構造を考えると小指側を中心に考えるのが合理的である.このことから想像をたくましくして,バイオリンでも右手の動きは小指側が軸になって動くのではないかという予想をたてた.このイメージをもつことで,手首から少し力を抜くことができたと同時に,前項で書いた持ち方の誤りにも気づくことができた.

肘の動き

その次のレッスンに行って教えてもらったことは「肘の動き」である.肘関節の屈曲,伸展を使って弓を動かすことはだいたい感覚的に理解できるようになっていたのだが,肘関節の動きだけで弓の動き全体を実行することはできない.弓の先の半分くらいが弦の上にあるときは肘関節の動きだけでおおよそ弓を動かせるが,弓の根元に近づくと肩の回転(つまり,肘の動き)が重要になってくる.私は肘の回転ばかりに意識が向いていたために,弓の根元の部分の動きに無理が生じていたのである.逆にいえば,弓の根元に近づくにつれて肘を上げて前腕を水平に保つようにしないといけない.

レッスンで右腕の動きを何度も教えてもらって,翌日から家で練習したがこれがとても難しい.この段階で,先生がその前のレッスンで,「弓の根本まで使うことは難しい」とおっしゃっていたことを実感することになった.

この文章を書いている時点では,いまだに右腕の動きや弓の持ち方を習得していないので,この項目についてはここまでとするが,試行錯誤の過程で気付いたことを一つだけメモに残しておきたい.それは,姿勢を正しく保つと右手の動きが楽になるということである.

ピアノにせよバイオリンにせよ,身体の作り出す力を利用して音を出すので,腕だけでなく身体全体の姿勢や動きが重要である.私は普段から猫背で姿勢がよくないので,それが原因で身体がうまく使えていないことがよくある.バイオリンでの右手の動きについては,姿勢を正しく保ったときに上腕の動きが楽になることに気付いてあらためて姿勢の大事さに気付いた.


Last-modified: 2019-10-22 (火) 11:13:15