バイオリンのはなし

弓の持ち方(その2)

やはり弓の持ち方は難しく,習い始めて50日たっても(5月下旬段階で)いまだにしっくりこない.前回のメモのその後の記録を残しておきたい.

薬指が上がる?

5月の連休があけてレッスンを受けにいったときに,先生に「力が入ると薬指が持ち上がりますね」と指摘された.弓を操るときに人差し指や小指の感覚が重要な役割をすることは以前から聞いていたが,薬指のことはまったく意識に上っていなかった.そこで,次の日から薬指の感覚を意識して練習してみた.

 これは他の運動でも同じことであろうが,力の抜くための一つの方法は感覚の耳を澄ますことではないかと思う.つまり,微妙な感覚を触覚でとらえようとすると,手先の力を抜いてしなやかにするはずである.がちがちに力を入れた状態で,微妙な肌触りを確かめようと思ってもうまくいくはずがないからである.つまり,感覚を敏感にしようとすれば自然に脱力するであろう,ということである.ゆえに,薬指に力が入っているのであれば,薬指の感覚に耳を澄ませてみよう,ということを考えたわけである.

 すると,薬指がフラッグ(弓の根元の部分)に触れる感覚などこれまで意識したことのない感覚を感じることができるようになった.

(このことに関してはメモをきちんと残さなかったので,そのときの具体的な印象はこれ以上詳しく書けない.残念.)

体重を楽器に載せる

 上に書いたようないろいろな工夫や試行錯誤をしたのだが,「手首が硬いですね」という指摘はしばらく続いている.もちろん,私本人はどうしたら力が抜けるのかよくわからなくてとにかくあれこれやってみるのである.ここではその一つの試みが 「体重を楽器に載せる」ということである.

 ピアノを弾く場合を考えてみる.ピアノは指で弾くものであるが,これは指の力で弾くことを意味するわけではない.もちろん早いパッセージは指だけで弾くこともあるが,出したい音の音色や大きさに応じて,手首,腕,上半身,全身を使って音を出す(恥ずかしながら,私がピアノを習っているときはこのことを意識したことはなかった.このことを知ったのは最近になっていろいろと勉強してからのことである).これは,物理的には,身体の体重を腕を介して指に伝えて,その力をもって鍵盤をたたくということである.もちろん,バイオリンでは全身の体重を楽器にかけることはないが,「腕の重さを弓に伝える」ということはいつも先生が口にされる言葉なので,原理的には同じことを意味しているのであろうと思う.

 というわけで,ある週に,大げさに楽器にわざと体重をかけることを意識して練習してみることにした.身体の左に重心を置き,楽器に覆いかぶさるような感じで,弓に体重を預けてみるわけである.この動作自体は間違った動作ではあるのだが,「手の力を使わずに弓に腕の重さを預ける」ことを実感するうえではとても大きな効果があった.こういう弾き方をして次の週にレッスンを受けにいったところ,さっそく先生から「前を向いて弾いてください」と注意されたのだが,いったん腕の重さを弓に預ける感覚がわかってしまえば,身体を前に向けた正しい姿勢で(つまり楽器に覆いかぶさるような感じにしなくても)同じ感覚を維持することはできるようになった.これは,手首の力を抜くことができる一つのきっかけになるのではないかと思う.

弓は指で持たない

 この項目を書いているのは6月下旬であるが,もう一つ方向性として間違っていないと思うのは,「弓を指で持たない」ことを実感できるようになったことである.

 弓を指で持たないことは,すでに前回のメモでも書いていたことである.前回は「中指と親指で挟むようにして持たない」ということは書いたのであるが,それでも,相変わらず「指で持つ」状態は続いていたようである.というのは,私自身が「指で持っている」という感覚をあまり明確に抱いておらず,それが悪いと思っていなかったからである.先生からは何度か「指を深くして弓にあててください」と言われていたのだが,それがよくわかっていなかったということでもある.

 しかし,あるときに「どうも自分は指先で弓を感じている.これがまずいのではないか」ことに気づいた.このページの上の方で「薬指」の話において,ここでは指先の感覚を大事にすることで指に入る力を抜くことを書いたが,このことがもしかしたら悪い影響を及ぼしていたのかもしれない.つまり,指先で弓を感じるように仕向けてしまったかもしれないということである.そこで,手全体で包み込むようにして弓を持つイメージでとらえるようにしてみた.このようにすると,自然に指が深く弓と接するようになり,指ではなく手で弓を持つ(持つという感覚はよい言葉ではないが,ほかに言葉がないので)ようになる.手で包み込むので指は丸くなり,当然力も抜ける.手全体で弓の運動を支えるので,手首に余計な力が入らないようになる.

 このような感覚を得るようになったきかっけは,先生から「だいぶんよくなっていますが,小指がつっぱっていますね」と言われたことにあるかと思う(ちょっと,記憶があやふや).小指は丸く曲がってバネの働きをするのが適切ということは,バイオリンの本にはどこにも書かれていることで当然頭に入っていたのだが,自分が実際に弾いているときには,そうなっていなかったということである.小指がまっすぐに突っ張らないようにするには力を抜いて丸めるしかない.となると手全体を丸くして弓を持ってみてはどうか,という考えに行き着いたのではなかったかと思う.


Last-modified: 2019-10-22 (火) 11:13:15